2022/07/26 10:00

TPO」という言葉を作り、

メンズファッションをアイビースタイルで世に広めた張本人、

海辺の町では、私のすべてに影響を与えてくれた酒場の主、

そんな人とはじめてプライベートで酒の席を持つことになった。

 

とても緊張した。まずはじめに何を着ていくか、そこから始まった。

 

オーダークロージングの業界にいた当時は、

礼儀と節度が頭にあった。

大変お世話になった年長者と会食をするなら、スーツにネクタイ、

もちろん、ウエストコートは当たり前だと考えていた。

自ら身に付け体現することで、宣伝にもなるから、

そのスタイルを貫いていた。

「栗岩さんって、寝る時もスリーピーススーツですか?」

と後輩に聞かれるぐらいに貫いていた。

真夏でもスリーピースにネクタイで

「男は黙ってやせ我慢」と嘯いていた。

そんな自分が師と仰ぐ人と会食、答えが出なかった。

 

約束の前日、場所と時間の連絡の最後に言われたひと言

「お前さ、あんまり決めてくるなよ」

困って、迷って、狼狽えた。

六本木、飯倉界隈、一流ホテルのバーで食前酒、

隠れ家的なリストランテで食事、食後に葉巻と酒。

考えに考え抜いた挙げ句、

ハイネックニットにスーツ、

ダークグレイの一色に決めた。

精一杯の「決めすぎない服」だと思ったから、そうした。

 

当日、会った時のひと言

「いやー、堅いね、良い服だけど。さ、行くか」

……

 

それから改めて「TPO」を考えた。

仕事の立場を越えた男同士、膝を突き合わせての酒の席、

リラックスして心地好く、美しく見える服が良いと思った。

時間を共有する相手と場所と時間帯を考えて、

気張らずに、畏まらずに、驕らずに。

 

その後出会った彼の服  https://www.kuriiwastyle.com/blog/2022/07/11/200951

を愛用することになった。

木挽町路地裏の自身の酒場でも愛用し、

たくさんのお客様からその服について聞かれた。

 

服は自身を表すメディアになる、と常々考えてきた。

歳を重ねた今、更に思うし、実感し、体感しているし、

今以上、そうでありたい。

 

堅すぎず、柔らかすぎず、

だらしなくならず、美しく見える服、

今日はたくさんの人と会い、話す服。

 

そういえば、同じ後輩に

「栗岩さんって、ラーメン食べるんですね!」

 

メディアとして大切なことは、他者からのイメージ作りかと。

ラーメンはもちろん、好きですけど……

 

令和四年 大暑の頃にやせ我慢

栗岩稔