令和四年 昼食をカレースパに決めた朝に | KURIIWA STYLE

2022/05/24 10:00

地元の百貨店に勤務をしていた頃

店内にある喫茶店で束の間の休憩を過ごしていた時間

当時はまだ煙草を喫うことが出来たし、珈琲も美味しかった

 

お気に入りの昼食はサラダと珈琲が付いたカレースパゲティセット

決して愛想が良いとは言えないが、ホールの女の子の対応も良かった

席に着くと「カレースパセットですか?」「はい」で会話が済んだ

冷めた珈琲が嫌いなこともあって、食べ終わる頃に珈琲を持ってきてくれた

砂糖もミルクも、もちろんスプーンも無く、小さな灰皿とともに

とにかく間が良かった、何から何まで心地好い時間が流れていた

有線放送で店内に流れ出る時代を映す歌謡曲も心地好い時間だった

 

地方の小さな町でも感じる泡沫的な経済で浮わついた世の中に

昭和天皇崩御の知らせで一年がはじまり街中が喪に服す中

新しい時代のはじまりに新しい場所で新しい生活を始めることになった

地元を離れる前の最後に昼食はカレースパゲティセットに決めていた

いろいろな誘いは決して受けずに一人過ごすことに決めていた

いつもの時間がとても心地好く、とても嬉しく、少し寂しかった

その日最後の煙草を消して席を離れたその時に有線放送が途切れた

最後の日の放送事故もありかなと思った矢先に別の音楽が流れた

当時流行っていたプリンセスプリンセスの「M

自己紹介なんかしたっけ、と思いながらも何だか嬉しかった

寂しさと怖さと不安と期待が入り交じった気持ちがほどけた

背中を押された最後のカレースパセットの時間だった

 

住む世界も何もかも、経済の泡が弾けた後に世界が大きく変わった

地元の百貨店もなくなった

 

ベルリンの壁崩壊と東西ドイツの統一、ソビエト連邦解体、冷戦終結

大きな大きなうねりのなかでも、チェコスロバキアの民主化運動

非暴力で滑らかに進んだビロード革命とも呼ばれるVelvet Revolution

民主化運動を先導して、後に大統領にまでなったひとりの男は

1960年代のアメリカで活動したLou Reed をリーダーとする

The Velvet Underground の楽曲が背中を押したとのこと

国を変える活動の原動力となった音楽の力というものを強く感じる

住む町を変える勇気を持つことになったそれとは大きな差はあるものの

 

その力を感じる場面をたくさん見聞きするそれは

売上を作るためだけの商業的な音楽ではなく

時代が生み出し、時代が必要とした音楽ではないかと

 

世界的な疫病蔓延の中で音楽を直接届けることが出来なくなり

その音楽を生み出す人々の存在すら危ぶまれる時期もあった

今では届け方が変わり進化したものが伝わり浸透している

激減したライヴの動員もその価値観が変わり急上昇するともいわれ

新しい流れを感じながらも古くから人を支えてきた音楽の力に改めて感謝する

 

ひとりの男の背中を押して生き方を変える勇気をくれた音楽

ひとりの男の背中を押して国を変える原動力となった音楽

 

それぞれの音の風景や音の記憶がそれぞれの人生に刷り込まれている

 

五月雨を迎える前のこの時期に

音の記憶をたどりながら

 

令和四年 昼食をカレースパに決めた朝に

栗岩稔